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上肢機能障害の賠償額と裁判例
1.後遺症慰謝料について
上肢機能障害として設定されている等級に応じた後遺症慰謝料の額として、裁判所は概ね下記の金額の慰謝料を認定する傾向にあります。
第1級4号 | 2800万円 |
---|---|
第5級6号 | 1400万円 |
第6級6号 | 1180万円 |
第8級6号 | 830万円 |
第10級10号 | 550万円 |
第12級6号 | 290万円 |
2.逸失利益算定の基礎となる労働能力喪失率
逸失利益算定の基礎となる労働能力の喪失率は、上肢機能障害に関する等級ごとに概ね下記のとおりです。
第1級4号 | 100% |
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第5級6号 | 79% |
第6級6号 | 67% |
第8級6号 | 45% |
第10級10号 | 27% |
第12級6号 | 14% |
実際の裁判例紹介
上肢機能障害に関する若干の裁判例を紹介します。上肢機能障害に関しては、概ね上記の表に準じた慰謝料額および労働能力喪失率が採用されている傾向にあります。等級が認定されれば、慰謝料及び逸失利益の示談交渉や訴訟による請求が比較的スムーズに行われる損害項目であると考えられます(もっとも、示談交渉や訴訟には他の要素も大きく影響するため、個別具体的な案件によって異なります。下記裁判例の結果は、あくまで参考としてご覧ください)。
○ 第1級4号
鳥取地方裁判所米子支部判決(平成21年7月13日)
交通事故の事案ではありませんが、医療過誤により重い脳障害が残り、その結果、上肢に関しては、「両上肢の用を全廃したもの」として第1級4号に相当する事案に関して、裁判所は下記のとおり判示しました。
逸失利益に関して
原告X1の後遺障害が、交通事故の後遺障害別等級表で1級相当のものであることは、当事者間に争いがない。したがって、その労働能力喪失率は100%である。…原告X1の逸失利益の額は、5067万9048円(552万3000円×〔19.075-9.899〕)となる。
慰謝料に関して
原告X1は、本件医療事故のため、1級相当の後遺障害を負ったもので、その人生の大半を、生活全般について他人の介助を受けなければならない生活をやむなくされたのみならず、通常ならば成長や生活の中で得ることができたはずの多くの楽しみを失うことになったものである。上記のほか、本件に顕れた一切の事情を総合すると、原告X1の後遺障害慰謝料としては、2800万円を認めるのが相当である。
○ 第5級6号
大阪地方裁判所判決(平成20年11月26日)
バイクを運転していた被害者について、被害者は「本件事故により右腕神経叢損傷を生じ、右上肢の完全麻痺の後遺障害を残存したものと認めることができる。これは、「1上肢の用を全廃したもの」として自賠等級第5級6号に該当するものである」と認定された事案で、後遺症に関する損害賠償について、裁判所は下記の通りに判示しました。
逸失利益に関して
「前記認定、判断のとおり、原告は本件事故により利き腕である右上肢の用の全廃を生じたものであるから、労働能力を79パーセント喪失したものと認めることが相当である。…以上に基づき原告の逸失利益を算定すると、6409万5385円となる。」
慰謝料に関して
原告に自賠等級第5級に相当する後遺障害が残存したことは、前記認定のとおりであり、本件に顕れた一切の事情を総合考慮し、後遺障害慰謝料としては1440万円を相当と認める。
○ 第6級6号
東京地方裁判所判決(平成23年3月9日)
「自賠責保険後遺障害等級証明書には、…(1)左肩関節は完全弛緩性麻痺に近い状態にあり、左肘関節は自動運動が不能と認められるから、「1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの」として後遺障害等級第6級6号に該当する、(2)左手関節は、その可動域角度が参考可動域角度の1/2以下に制限されているから、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」として後遺障害等級第10級10号に該当する、(3)、(1)、(2)の障害は、同一系列の障害であるため、併合の方法を用いて第5級相当となるが、後遺障害等級第5級6号の「1上肢の用を全廃したもの」の障害程度に達しないから、直近下位の第6級相当とする」とされている事案について、裁判所は下記の通り、判示しました。
逸失利益に関して
上記のとおり、Aは、後遺障害等級第6級の後遺障害を負い、67%の労働能力を喪失したと認められる。
慰謝料に関して
後遺障害慰謝料 1180万円。Aは、前提事実(4)のとおり、Aの後遺障害が後遺障害等級第6級に該当する旨の認定を受けており、同級に相当する後遺障害が残存したものと認められる。これによれば、後遺障害慰謝料は上記額が相当である。
○ 第10級10号
徳島地方裁判所判決(平成24年1月18日)
「本件事故による後遺障害として、原告の左肩関節の可動域は、屈曲が他動50度・自動30度、内外転が他動60度・自動40度であり、健側である右肩関節の可動域(屈曲が他動・自動とも180度、内外転が他動・自動とも210度)の2分の1以下に制限されていること等から、1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すものとして、後遺障害等級10級10号に当たる」とされた事案において、裁判所は下記のとおり判示しています。
逸失利益に関して
年収120万円、労働能力喪失率27%、喪失期間5年(症状固定時の平均余命の2分の1)として、ライプニッツ係数(4.329)により中間利息を控除すれば、逸失利益は140万2596円となる。
慰謝料に関して
本件の受傷内容、通院期間、後遺障害の内容・程度その他本件の諸事情を総合考慮すれば、通院慰謝料120万円、後遺障害慰謝料550万円が相当である。
○ 第12級6号
東京地方裁判所判決(平成16年12月21日)
「損害保険料率算出機構は、既認定のとおり原告の後遺障害等級を12級6号と判断している…そして、その判断は自然かつ合理的である。」とされた事案において、裁判所は下記のとおり判示しています。
逸失利益に関して
「労働能力喪失率についてみるに、労働省労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発551号)別表は、後遺障害等級12級の労働能力喪失率は14%としている。しかしながら、指圧師は、その治療業務において、指先を使うばかりではなく、手指を患者の体に当てた上で、手指に対する身体の体重のかけ方を微妙に調整するなどして施術を行うことなどからすれば、上記の後遺障害(右肩関節の可動域制限のみならず、右肩ないし肘の痛み、右上肢のしびれ等も含まれている。)による影響は大きいものと推認される…。このような事情を考慮すると、原告の後遺障害による労働能力喪失率は20%と認めるのが相当である。もっとも、就労可能期間については、症状固定時に原告は70歳と高齢であること、原告の仕事には相当の体力を要することなどを考慮し、5年とするのが相当である。…以上により、原告の後遺障害逸失利益を算定すると…608万0192円となる。」
慰謝料に関して
原告の後遺障害等級に照らせば、後遺障害慰謝料は290万円を認めるのが相当である。