交通事故の過失割合はどうやって決まるのでしょうか?
裁判によらない示談交渉の場では、当事者双方の話合いによって決まります。
1.過失割合の基本的な考え方
裁判所、弁護士、保険会社のいずれも、原則として「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(判例タイムズ社。以下「本書」といいます)に従って決められています。具体的方法は、次のとおりです。
本書全訂5版では、あり得る交通事故の類型として338件の類型を挙げていますが(この類型内容、件数は改訂を経るごとに変更されていきます)、まず、事故がどの類型に近いかを調べます。たとえば、「信号機のある交差点での、自動車同士の出会い頭の事故」だったとしましょう。そうすると、本書全訂4版では、類型98から類型100までの3つの類型が用意されています。
これら3件を見比べると、「信号の色」が問題となっていることがわかります。次に、自分の車、相手の車がそれぞれ何色の信号のときだったかを思い出しましょう。
そこで、たとえばあなたの車が黄色、相手の車が赤だった、ということになりますと、類型52が合っているということになります。そこで、この類型の「基本割合」を見ると、20:80と記載されているので、特別な事情がないかぎり、あなたが20%、相手が80%という事故だということになります。
しかし、それで終わりではありません。その下に書かれている「修正要素」という項目を見ていきましょう。たとえば、あなたが赤信号の直前に交差点に進入したのだとすると、あなたの過失割合20%に10%が加えられることが書かれています。もしこのような事情があったとすると、あなたが30%、相手が70%ということになるのです。
ただ、実際には、これだけ類型が用意されているにもかかわらず、どの類型にもあてはまらない事例も少なからず存在し、そのような場合は、できるだけ似ている事案を参照しながら妥当な過失割合を考えていくことになります。ただ、類型と違えば違うほど過失割合の判断は難しく、訴訟になった場合の予測は困難となります。
2 過失割合を「決める」のは誰か?
以上のとおりが過失割合の考え方ですが、ご相談を受ける中で、「もう保険会社が過失割合を決めてしまったのだけれども、これに納得がいかない」などのお話をお聞きすることがあります。しかし、これは誤解でありまして、保険会社が一方的に過失割合を決めることはできません。あくまで、任意の話合の段階では、被害者の方と保険会社との「合意」があって初めて過失割合が決まるのです。ですから、保険会社がいう過失割合は、「保険会社の一方的な見解」に過ぎず、これに「合意」しなければ、過失割合が決まることはないのです。そして、このような「合意」ができないときは、最終的には訴訟になりますが、訴訟になった場合には、当事者の主張と提出する証拠を見て、裁判所が過失割合を決めることになり、これが最終判断となります。
3 過失割合でなかなか合意できない場合はどうしたらいいか?
たとえば、「交差点である」とか、「信号機がある」とか、「どちらも自動車だった」とか、「自分の走っていた道路は優先道路だった」などの事情は、交通事故証明書などで客観的に明らかなので、争いになることはありません。
しかし、「衝突のとき、相手が合図をしていなかった」とか、「衝突のとき、相手方の信号は黄色から赤色に変わる瞬間だった」などの事情は、上にご説明した「修正要素」として大変重要な事情ではありますが、とくに示談交渉の段階では、客観的な証拠がないことが多いので、深刻な争いになることがあります。このような場合、刑事記録を取得することが非常に重要です。ただ、刑事記録を取得すれば、それだけで被害者の言い分が正しいことが明らかになるとはかぎりませんので、そこからさらに資料の収集や交渉が必要となると思われます。
お互いの言い分が大きく食い違うような場合は、相手方との争いが相当長期間におよぶ可能性があるので、とくにお金のやりくりが難しくて当面の生活費にも困ってしまう状況にある被害者の方は、争いどころではない状況に陥ることがあります。そのような方は、自賠責保険の被害者請求をしたり、あるいは(あなたがかけている)人身傷害保険の保険金を請求したりすることを検討して、早めに賠償を受ける方法を考えたほうがよいでしょう。以上のとおり、過失割合をめぐる交渉では、色々な要素をバランスよく考えていかなければならず難しいものなので、知識、経験がある専門家に相談することをお勧めします。