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もらい事故の慰謝料請求で失敗しないコツを弁護士が解説【人身事故編】

もらい事故

もらい事故とは、被害者側に一切過失がない事故のことをいいますが、もらい事故での示談には注意が必要であることをご存じですか?

実は、もらい事故の慰謝料請求には落とし穴があります。
もらい事故のように加害者が一方的に悪い事故であったとしても、保険会社が損害に見合った適切な慰謝料を提示してくれるかどうかはわかりません。そのため、あなたが気づかないうちに損をしてしまうことがあるのです。

そこで今回は、もらい事故の慰謝料請求について失敗しないコツを弁護士が解説いたします。

この記事でわかること
  • もらい事故で慰謝料請求ができるケース
  • もらい事故の慰謝料について保険会社は交渉できない
  • もらい事故で慰謝料が妥当か判断する方法
  • もらい事故の慰謝料請求で失敗しないコツ
目次

もらい事故で慰謝料を請求できるケースとは?

交通事故の被害者が、「今回の事故はもらい事故だから、慰謝料を請求できるはずだ」と考えていても、実はその事故は「もらい事故」ではなかったということも少なくありません。
そこで、まずは「もらい事故」とはどのような事故なのか詳しく説明します。

もらい事故とは?

もらい事故とは、被害者にまったく過失がない事故のことです。

もらい事故となることが多い事故類型は、大きく分けて次の4つです。

  1. 停止中に相手に衝突されてしまった
  2. 信号待ちのため停止していたところ、後方から追突されてしまった
  3. 道路を走行していたところ、対向車がセンターラインを越えてきたため正面衝突した
  4. 青信号で交差点に進入したところ、赤信号を無視した相手と衝突した

ただし、具体的な事故状況によっては異なることがあります。自分の事故がもらい事故に当てはまるか不安な方は、一度弁護士に相談されたほうがいいでしょう。

人身事故であること

ただし、上記のようなもらい事故の事故類型に該当すれば、必ず慰謝料が請求できるというわけではありません。

そもそも慰謝料とは、生命・身体・自由・名誉・貞操などを侵害する不法行為によって生じた精神的苦痛に対する損害賠償のことです。そのため、自動車が損傷しただけの物損事故の場合は、基本的に慰謝料を請求することができません。交通事故によってケガを負った場合など、人身事故であることが必要です。

人身事故とするためには、警察署へ医師の診断書を提出する必要があります。
ただし、交通事故から時間が経過してしまうと、診断書を提出しても受理してもらえないことがありますので、注意しましょう。

たとえば、交通事故の直後は痛みを感じなかったが、自宅へ帰宅して初めて痛みを感じた、といったケースもあります。事故の直後はアドレナリンが分泌されるため、このように痛みを感じず、あとから症状に気づくことがあるのです。この場合、できるだけ早く医師の診察を受け、診断書を警察へ提出しましょう。

もらい事故の慰謝料はいくら?基準別にご紹介

交通事故において請求できる慰謝料は、次の3つがあります。

  • 入通院慰謝料
    交通事故で負ったケガを治療した場合に請求できる慰謝料
  • 後遺症慰謝料
    交通事故によりケガを負ったあと、十分な治療をしたにもかかわらず、後遺障害が残ってしまった場合に、後遺障害の症状や程度に応じて請求できる慰謝料
  • 死亡慰謝料
    交通事故によって被害者が死亡してしまった場合に請求できる慰謝料

そして、慰謝料の計算方法には下記3つの基準があり、基準ごとに請求できる慰謝料の額が異なります。

  1. 自賠責保険基準
  2. 任意保険基準
  3. 弁護士基準(裁判所基準)

そこで、それぞれの基準の具体的な計算方法を以下で説明いたします。

自賠責保険基準で算定した場合

まずは自賠責保険基準です。自賠責保険基準は、最低限の金額を簡易・迅速に支払うことを主たる目的としており、3つの基準のなかでもっとも金額が低いとされる基準です。

それでは、自賠責保険基準による慰謝料の金額と算定方法を見ていきましょう。

自賠責保険基準の入通院慰謝料

自賠責保険基準の入通院慰謝料は、日額を4,300円として、次のいずれか少ない日数を乗じて算出します。

  • 事故日から完治または症状固定日までの期間
  • 通院期間のうち、実際に医療機関へ通院した日数を2倍した日数

たとえば、通院期間6ヵ月(180日間)、通院日数50日間のケースで、慰謝料がいくらになるか計算してみましょう。

この場合、通院期間の「180日」と比べて、通院日数50日の2倍である「100日」が少ないので、通院日数の2倍である「100日」を基準に計算します。

4,300円×100日=430,000円

ただし、自賠責保険には支払上限(傷害部分は120万円)があります。

自賠責保険で支払われるのは入通院慰謝料だけではなく、治療費や交通費、休業損害などの損害も含まれます。つまり、これらの損害の合計額が120万円を超えた場合、その超えた部分は自賠責保険では支払われません(任意保険で支払われる可能性があります)。たとえば、治療費だけで120万円を超えた場合には、慰謝料は支払われないことになります。

自賠責保険基準の後遺症慰謝料および死亡慰謝料

入通院慰謝料が入通院期間に応じて支払われるのに対して、後遺症慰謝料は後遺障害の等級ごとに法令で定められた一定の金額が支払われます。また、死亡慰謝料も法令で定められた一定の金額が支払われます。

ただし、これらの慰謝料にも支払上限があります。
後遺障害による損害の場合は、等級ごとに75万円から4,000万円の範囲内で、死亡の場合には3,000万円の限度額が定められています。

任意保険基準で算定した場合

次に任意保険基準です。
任意保険基準は、保険会社が定めている基準です。各社で独自に定めており、その内容は非公開とされています。

示談交渉において、加害者側の保険会社から最初に示談金の提案を受ける際、多くがこの任意保険基準に基づいて計算された金額です。

この任意保険基準で計算された慰謝料は、おおむね自賠責保険基準より若干高く、これから説明する裁判所基準よりも低い金額とされています。

弁護士基準で算定した場合

これまで自賠責保険基準と任意保険基準を説明しましたが、これらの基準と比較してもっとも高額となるのが「弁護士基準」です。

弁護士基準は、裁判で争われた場合や、弁護士が被害者の代理人として交渉する場合に用いられるものです。そのため、被害者自身が保険会社と交渉しても弁護士基準での慰謝料算定は認められません。弁護士基準を適用するには、加害者側の保険会社との交渉を弁護士へ依頼する必要があります。

それでは、弁護士基準で計算した場合、慰謝料がいくらになるのか見ていきましょう。

弁護士基準の入通院慰謝料

弁護士基準の入通院慰謝料は、1日ごとにいくらの金額という形式ではなく、入通院の期間に応じて金額が決まります。入通院期間が長期化するほど、慰謝料の増加率が緩やかになります。
この入通院慰謝料は、ケガの程度によっても異なります。具体的には、一般的に軽傷とされる「むちうち症」と、それ以外の症状とで金額が異なるのです。

それでは、どのように計算するのでしょうか。

入通院慰謝料は次の表に基づいて算定します。このうち「むちうち症」の方に適用される表は「別表Ⅱ」といい、「むちうち症以外の症状」の方に適用される表は「別表Ⅰ」といいます。

別表Ⅰ
別表Ⅱ

たとえば、症状が「むちうち症以外」で通院期間が6ヵ月の場合、慰謝料はいくらでしょうか。

この場合、別表Ⅰを用いて算定します。
表は横軸が入院期間であり、縦軸は通院期間を示しています。
したがって、横軸0ヵ月の列と縦軸6ヵ月の列の交差する金額が、この場合の入通院慰謝料となります。

別表Ⅰ

よって、入通院慰謝料は116万円になります。
先ほどの自賠責保険基準では、43万円でしたので、およそ2.6倍もの差があることがわかります。

弁護士基準の後遺症慰謝料

後遺症慰謝料は、後遺障害の等級ごとに一定の金額が定められています。

後遺障害等級(介護を要する)自賠責保険基準弁護士基準
第1級1,650万円(1,600万円)2,800万円
第2級1,203万円(1,163万円)2,370万円
後遺障害等級(介護を要さない)自賠責保険基準弁護士基準
第1級1,150万円 (1,100万円)2,800万円
第2級998万円(958万円)2,370万円
第3級861万円(829万円)1,990万円
第4級737万円(712万円)1,670万円
第5級618万円(599万円)1,400万円
第6級512万円 (498万円)1,180万円
第7級419万円 (409万円)1,000万円
第8級331万円 (324万円)830万円
第9級249万円 (245万円)690万円
第10級190万円 (187万円)550万円
第11級136万円 (135万円)420万円
第12級94万円 (93万円)290万円
第13級57万円180万円
第14級32万円110万円
  • ()内は2020年3月31日以前に発生した事故の場合

たとえば、後遺障害14級に認定された場合、弁護士基準の後遺症慰謝料は110万円となります。
一方で、同じ14級でも自賠責保険基準では、32万円となり、およそ3.4倍もの差があるのです。

弁護士基準の死亡慰謝料

死亡慰謝料についても、被害者や親族の区分に応じて一定金額が定められています。

遺族慰謝料を含んだ金額
被害者が一家の支柱である場合2,800万円
被害者が母親・配偶者である場合2,500万円
その他の場合2,000万円~2,500万円

もらい事故の慰謝料は自分で交渉しなければならない

もらい事故において特に注意すべきは、保険会社の示談交渉代行サービスを利用できないことです。

示談交渉代行サービスとは、被害者に代わって保険会社が加害者もしくは加害者側の保険会社と交渉を行ってくれるサービスです。このサービスを利用できないということは、被害者自身が加害者側と直接交渉しなければなりません。

対して加害者側は、示談交渉代行サービスを利用することができるので、多くのケースで被害者の交渉相手は、加害者側の保険会社の担当者となります。つまり、交通事故の示談について専門的な知識を備えた社員が窓口となり対応するのです。

交通事故の示談交渉では、過失割合などの専門的知識が必要になります。もし、交通事故の示談についての知識が乏しければ、加害者側の保険会社から一方的に交渉を進められてしまい、結果的に被害者であるあなたが損をしてしまうことがあります。

そのため、もらい事故の場合はできるだけ早く弁護士に依頼して、交渉を任せるのがいいでしょう。

保険会社が提示する慰謝料は妥当?損しないためにすべきこと

いきなり弁護士に相談することに抵抗感を覚える方も多いかもしれません。
しかし、保険会社から提示される示談金は、必ずしも適切な金額とは限らないのです。それにもかかわらず、安易に示談してしまっていいのでしょうか。

保険会社は支払う保険金を少なくすることで業績が上がります。そのため、できる限り少ない金額での示談をすすめてきます。そして、被害者はそれに気づかずに言われるがまま示談してしまい、結果的に損をしてしまうことがあるのです。

交通事故によるケガや心の傷は簡単に消えるものではありませんから、適切な賠償金を受け取るべきです。
そこで、被害者の方が損をしないためにすべきことを以下でご説明いたします。

適切な治療を行い、後遺障害の等級認定を受ける

入通院慰謝料は治療期間に応じて金額が決まるため、治療期間が適切でなければ、金額も不当なものになります。

たとえば、まだ治療中であるにもかかわらず、加害者側の保険会社から治療打ち切りを打診され、それに安易に応じて治療を辞めたとします。この場合、通院を継続していた場合と比較して治療期間が短くなるため、入通院慰謝料の金額も少なくなります。

また、後遺症慰謝料は後遺障害の等級に応じて決まるので、加害者側の保険会社に言われるがまま後遺障害の申請を諦めてしまうと、後遺症慰謝料を請求できなくなってしまいます。

したがって、適切な慰謝料を獲得するためには、加害者側の保険会社からの誘導に惑わされることなく、適切な治療を行い、適切な後遺障害等級の認定を受けることが大切なのです。

弁護士へ相談する

しかし、実際に加害者側の保険会社の担当者と交渉することは至難の業です。加害者側の保険会社の担当者は示談交渉のプロですが、被害者のなかで専門的な知識を有している方はそう多くありません。そのため、どうしても力の差があるのです。

たとえば、加害者側の保険会社から示談金の提案をされたとしても、その金額が適切な金額なのかの判断は、交通事故に詳しく、専門知識のある弁護士でなければ難しいでしょう。

そのため、示談金の提案をされたような場合や、加害者側の保険会社の対応に疑問を感じたときは、安易に応じるのではなく、弁護士への相談をおすすめします。示談金の額や加害者側の保険会社の対応の妥当性を判断してもらい、適切なアドバイスを受けることができるでしょう。

慰謝料の追加請求ができるかはケースバイケース

それでは、加害者側の保険会社からの提案に応じて示談してしまった場合、そのあとに慰謝料を請求することはできないのでしょうか?
示談後に痛みや症状が出てきた場合の慰謝料請求の可否について解説します。

基本的に示談成立後は追加請求できない

原則として、示談後は慰謝料の追加請求などはできません。というのも、示談書には「清算条項」が設けられているからです。

清算条項とは、当事者間に追加の請求権および追加の支払義務がないことを確認するためのものです。示談書には、「被害者と加害者との間には、本件事故について、本和解条項に定めるほか何ら債権債務のないことを相互に確認する」などのような文言で記載されていることが多いです。

このような条項がある場合には、示談書を取り交わしたあとに追加で慰謝料を請求することはできなくなります。

そのため、たとえ小さなケガであっても、示談する際には細心の注意を払う必要があるのです。

追加請求が認められた判例

もっとも、例外的に示談後でも賠償請求ができるとした判例(最高裁判所第2小法廷判決/昭和40年(オ)第347号)があります。

この判例は、示談当時予想しなかった後遺症等が発生した場合、示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであって、その当時予想できなかった再手術や後遺症が後日発生した場合には、被害者はその損害賠償を請求できると判示しました。

つまり、この判例によれば、示談当時予想できなかった後遺症があとで発生した場合には、その後遺症に関する損害をあとから請求できることになります。

もっとも、このような請求はあくまで例外であって、基本的には示談したあとに追加で慰謝料などを請求することはできないと考えたほうがよいでしょう。

したがって、やはり示談を行うときに細心の注意を払うべきなのは変わりません。

まとめ

このように、自分ではもらい事故だと考えていても、そもそも「もらい事故」であるのかどうか争われることがあります。また、慰謝料の金額は算定基準によって異なるので、示談金の妥当性判断は交通事故に詳しい弁護士でなければ難しいでしょう。

そして、ひとたび示談を交わしてしまうと、その後に追加で慰謝料などを請求することは難しくなります。もらい事故であるからといって安易に示談に応じてしまうと、思わぬ不利益を受けてしまうおそれがあるのです。このような不利益を被らないようにするため、早めに交通事故に詳しい弁護士に相談して、適切な内容で示談することをおすすめします。

弁護士費用特約サービスが付いている方は、保険会社が弁護士費用を肩代わりしてくれるため、費用の心配なくご相談いただけます。あなたが提示された示談金がきちんと計算されたものであるかを確認し、弁護士が適切な金額で示談できるよう導きます。

この記事の監修者
中西 博亮
弁護士 中西 博亮(なかにし ひろあき)
資格:弁護士
所属:東京弁護士会
出身大学:岡山大学法学部,岡山大学法科大学院
私は、交通事故案件に特化して取り組んでおり、これまで多数の案件を解決してきました。加害者側の保険会社は交通事故の被害者の方に対して低い慰謝料しか提示しないため、正当な補償を受けられない被害者が多いという実情があります。被害者の方に正当な補償を受け取っていただけるよう、私は日々、被害者の方のお声を聞き、被害者の方に代わって加害者側の保険会社と戦っています。