示談成立後に後遺障害が発覚。示談やり直しや追加請求は可能?弁護士が解説
ここを押さえればOK!
示談は当事者間の合意で民事上の責任を解決する方法で、一度成立すると原則としてやり直しができません。
示談書には決まった賠償金額と「これ以上の請求はしない」旨の条項が含まれ、署名・捺印した時点で追加の請求ができなくなります。
ただし、示談時に予測できなかった損害が後に発覚した場合や、示談が脅迫や詐欺によって成立した場合は例外です。
示談内容が公序良俗に反する場合も無効となることがあります。
示談書に署名する前には慎重な確認と弁護士への相談が重要です。
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交通事故の被害にあって、示談を済ませると、やり直しは原則できません。
しかし、示談に応じた段階で思ってもみなかった後遺症があとで発覚してしまったらどうでしょう?
結論からいうと、場合によっては追加で請求できる可能性があります。
そこで本記事では、示談後に賠償金を追加で請求できる場合や、示談の際に気をつけることについて解説します。
- この記事でわかること
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- 基本的に示談をやり直せない理由
- 示談で気をつけるポイント
- 示談後に示談のやり直しや追加の請求ができるケース
- 目次
示談は原則としてやり直しができない
「示談」とは、民事上の責任を民事裁判によらずに、当事者間による合意によって解決することです。簡単にいえば当事者間の話合いで解決することを指します。
交通事故で示談交渉する場合、慰謝料なども含めた賠償金額を話合いで決めていきます。最終的に、「いつまでにいくら支払って解決する」というように話合いがまとまるのです。せっかく話合いがまとまったのに、あとからもっと支払ってほしいと言われたら、言われた側も困りますよね。
そのため示談は原則としてやり直しできません。
示談をやり直せない理由は?
示談後にやり直せない理由をもう少し深堀してみましょう。
先ほど、いつまでにいくら支払って解決するかの話合いをすると説明しました。そして、話合いがまとまったら、一般的には示談書と呼ばれる書面にまとめます。
その示談書には、話合いで決まった賠償金額(支払われる金額)も書かれています。口頭での確認だけであると、あとから「そんなことを言った覚えはない」などと言われるかもしれないからです。
そして示談書には、「甲と乙は、甲と乙の間の本件事故について、本示談書に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。」といった内容の条項を書くことが一般的です。
要するに、そこに書いてある賠償金額は支払うけど、これ以外はお互いに貸し借りは一切ない、あるいはあったとしても放棄しますという意味の条項を記載するのです。
そのような内容が書かれた示談書に署名・捺印するということは、これ以上請求しないということに納得したということを意味します。
当事者が納得したのだから追加の請求はできないのです。
そのため、示談する際には、原則としてあとからやり直しはできないことを念頭に置いて、しっかりと判断して署名・押印しなくてはいけません。
なお、事故から一定の時間が経つと、時効により損害賠償の請求ができなくなることにも注意が必要です。
示談後に発覚した後遺障害は泣き寝入り?
示談書に署名・捺印した場合、何が起きてもやり直しや追加で請求ができずに泣き寝入りするしかないのでしょうか?
結論からいうと、必ずしも泣き寝入りする必要はありません。
たとえば、脅されて無理矢理に署名・捺印させられた場合を考えてみましょう。
この場合には、脅されて怖かったから書いてしまったわけですよね。
決してこれ以上は請求しないことを納得したわけではありません。それなのに泣き寝入りするのはおかしい気がしますよね。
そのため、この場合は賠償金を追加請求できる可能性があります。
それでは、署名・捺印したときには、これ以上請求しないことに納得したけれども、あとから後遺障害が発覚した場合はどうでしょうか。
また、ほかにも示談後に請求できるケースはあるのかについて考えていきましょう。
示談後に示談のやり直しや追加請求ができるケース
示談後に示談のやり直しや追加請求ができるケースは、次のような場合です。
- 示談したときには予測できなかった損害が発覚した場合
- 契約の効力を否定できる場合
示談のときには予測できなかった損害が発覚した場合
示談するということは、話合いで決まった金額以外は放棄するということでしたよね。
そうはいっても示談した当時に予想できなかった損害までは、賠償請求権を放棄していないと考えることもできるわけです。
そう考えれば、示談当時予想できなかった損害は放棄しておらず、別の損害としてあとから請求できることになります。
この考え方を採用した判例(最判昭和43年3月15日)があります。
この裁判では、全損害が正確に把握しがたい状況において、早急に少額の賠償金をもって満足する旨の示談がなされたことに放棄条項の効力がおよばないことを根拠として挙げています。
契約の効力を否定できる場合
示談は法律上、和解契約(民法第695条)にあたります。契約なので無効な場合や、取り消せる場合があります。心裡留保(民法第93条)や虚偽表示(民法第94条)、公序良俗違反の場合には無効です。また、錯誤(民法第95条)や詐欺・強迫(民法第96条)の場合には、契約を取り消すことができます。
ここでは、実際に問題となりうる公序良俗違反と詐欺について過去の裁判例も踏まえて見ていきましょう。
自賠責保険基準
示談の内容が公序良俗に違反している場合には、示談は無効であると判断されることになります(民法第90条)。
話合いで決まった金額以外は放棄したにもかかわらず、その内容が公序良俗に違反しているという理由で追加の請求を認めた裁判例として以下のものがあります。
この事件では、被害者が通常の半額以下の金額しか書かれていない示談書に署名・捺印してしまいました。被害者は事故で仕事ができなくなってしまい経済的に困窮していました。また、示談書に署名・捺印しなければ保険金の支払いを受けられないと信じていました。
このように相手の法律的な無知を利用して示談をしたため、この示談は無効と判断されました。
この事件は、被害者が弁護士などに相談せずに保険会社を頼りにして示談したというものでした(大阪地判昭和53年11月30日)。
示談で詐欺が行われた場合
示談に際して加害者から詐欺を受けた場合には示談を取り消せる場合があります(民法第96条1項)。
相手にだまされたのですから、示談を取り消してやり直せる可能性があるということです。
まとめ
いかがでしたか?
交通事故にあった場合、早く忘れたいという思いや、初めてのことでどうしていいのかわからないなどの理由から、示談書の内容もちゃんと確認しないでとりあえず署名・捺印してしまおうと思われるかもしれません。
しかし、示談書の内容によっては、一度署名・捺印してしまうと、あとからの請求が一切できなくなる可能性があります。
そのときになって、「ちゃんと考えておけばよかった。弁護士に相談するべきだった」と後悔しても遅いのです。加害者側の保険会社が被害者の味方になって丁寧に説明してくれるとは限りません。
示談の際に、「これでいいのだろうか」、「この示談書に書いてある条項はどういう意味があるのだろう」などの疑問が浮かんできたら、すぐに合意せず、弁護士に相談してみるのもいいかもしれませんね。