交通事故による耳鳴りで後遺障害と認定されるには?慰謝料請求はどうなる?
<症状例1>
信号待ち中に追突事故に遭った。幸い、軽いむち打ちで済んだものの、事故からしばらくすると「キーン」という耳鳴りを感じるようになった。しかし、痛めたのは首だけなので、そのままにしている
<症状例2>
衝突事故で首を痛めたあと、1ヵ月以上たっても低音の耳鳴りが続いているが、気のせいかもしれないので様子を見ている
もしかして、こんな耳鳴りの症状が出ているのを、放置していませんか?
実は、頭部への明確な受傷や検査で異常が発見されないにもかかわらず、交通事故のあと耳鳴りや聞こえにくさを自覚することは珍しくありません。少しでも自覚症状があるなら、それは「耳鳴りの後遺障害」に該当するかもしれません。
気づかないうちに、むち打ち症の陰に潜んでいる「耳鳴り」。
このページでは、交通事故後に発生する耳鳴りの症状や、後遺障害の認定、賠償金の請求について解説します。
- この記事でわかること
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- 耳鳴りで認められる後遺障害
- 耳鳴りの症状と受けておくべき検査
- 耳鳴りで請求できる慰謝料の相場
- 目次
交通事故による耳鳴りとは
耳鳴りの症状
事故により聴覚にかかわる器官を直接的に損傷したような場合、通常は即座に聴覚に異常を生じます。
しかし、むち打ちのような比較的軽いケガでは、事故発生から数日から数週間を経過して耳鳴りを生じる例もあるのです。耳鳴りの症状には個人差があり、キーンとする高音のものからジーという低音のもの、めまいや吐き気を伴うことまであります。残念ながら、耳鳴りが生じる原因についてはわかっていない部分もあり、ほかの人への説明も難しいことから、周囲の理解が得られずに苦しまれている方もいらっしゃるでしょう。
このような耳鳴りの症状がある場合には、早期に耳鼻科専門医を受診しましょう。適切な治療や検査を受けることで改善される場合もありますし、もし万が一、耳鳴り症状が残存してしまった場合、後遺障害として認定される可能性が高いです。
日常生活における耳鳴りの影響
耳鳴りは直接的に痛みがあるわけでも身体機能が制限されるわけでもありません。しかし、苦痛がない症状とは言いがたいものですし、放っておくと深刻な事態に陥るおそれがあります。
耳鳴りそのものが不快であり、人の声が聞き取りにくくなることはもちろんですが、なかには静かな環境ほど強く耳鳴りを自覚する方もおられ、耳鳴りが睡眠の妨げになったり、仕事や趣味に集中できなかったりします。さらに、そういった状況が続くと、リラックスできる状況が少なくなってイライラしやすくなりますし、常に耳鳴りに気が向いて鬱状態や不眠症になってしまうこともあり得るのです。
耳鳴りのための検査・治療にはどんなものがある?
聴力に係る検査
- 純音聴力検査
自賠責保険の後遺障害認定に当たっては「難聴に伴う耳鳴り」が認められることが第一の要件となります。
聴力検査として一般的なのは、オージオメータという装置を用いるものです。
狭い検査室に入り、ヘッドバンドを装着し検査音に合わせてボタンを押すというものであり、健康診断などで受けたことがある方も多いかと思います。
なお、難聴か否かは、純音聴力検査の結果から求める平均聴力レベルから判断されます。
耳鳴りに係る検査
- ピッチ・マッチ検査
オージオメータまたは耳鳴りの検査装置を用いて、自分に聞こえている耳鳴りが11周波数のうちのどの音に近いかを調べる検査です。 - ラウドネス・バランス検査
耳鳴りの大きさを調べる検査であり、耳鳴りの検査のなかでもっとも重要な検査です。
ピッチ・マッチ検査で得られた周波数の比較音を、音量を変えながら流すことで耳鳴りの音量と検査音が等しくなる音量を求めます。
耳鳴りに対する治療
内耳機能などの器質的な異常が見つからなければ、薬剤の投与や上記の検査を複数回行いながら、改善するまで経過観察を行っていくことが多いようです。
数ヵ月程度の治療を行い、聞こえにくさや耳鳴りに改善が見られない場合は後遺障害申請が検討されます。
耳鳴りの後遺障害とは?
耳鳴りが後遺障害とされるための認定要件
自賠責法施行令には耳鳴り症状について定まった等級がないため、その程度に応じて14級か12級に準じた等級として評価されます。
14級相当「難聴に伴い常時耳鳴のあることが合理的に説明できる」
難聴に伴いというのが重要な点です。
聴覚障害であれば、片耳の平均聴力レベルが6分平均40db以上から認定対象となりますが、耳鳴り症状の場合は40db以下の聴力レベルでも14級が認定される場合があります。
また、特定音域の難聴に伴って耳鳴りが生じているような場合でも認定された例があります。
12級相当「耳鳴に係る検査によって難聴に伴い著しい耳鳴が常時あると評価できる」
上述のピッチ・マッチ検査、ラウドネス・バランス検査において、難聴に伴う耳鳴りが所見された場合に認定対象となります。
注意として、耳鳴検査装置を取り扱っていない耳鼻科が存在し、聴力検査を行っても耳鳴検査が行われない場合があります。その時は主治医に後遺障害申請のため検査が必要になる旨を説明し、検査が可能な病院へ紹介状を書いてもらう必要があります。
耳鳴りの後遺症が残ってしまった!請求できる慰謝料や逸失利益の相場は?
後遺障害の慰謝料
後遺障害が認められた場合、治療期間に発生する損害(治療費など。慰謝料を含む)とは別に、後遺障害による損害として「後遺障害の慰謝料」を請求することができます。
そして、後遺障害の慰謝料は、治療期間に発生する損害として請求できる慰謝料(入通院慰謝料)とは別に請求できます。
なお、後遺障害の慰謝料については、後遺障害の各等級号別に支払い金額が基準化されており、耳鳴りの後遺障害で見込める後遺障害の慰謝料については、以下のとおりです。
14級相当:難聴に伴い常時耳鳴のあることが合理的に説明できる状態
32万円(自賠責保険の基準) →~110万円(弁護士介入による裁判所基準)
12級相当:耳鳴に係る検査によって難聴に伴い著しい耳鳴が常時あると評価できる状態
93万円(自賠責保険の基準) →~290万円(弁護士介入による裁判所基準)
このように、耳鳴りの後遺障害によって、少なくとも32万円以上の慰謝料獲得が見込めます。
任意の保険会社は、自賠責保険の基準どおりか、+αの金額を提示することが多いようです。
賠償金は自賠責保険基準での支払いや、任意保険会社の提示どおりの金額だけではなく、弁護士の介入(裁判所基準)によって、大幅に増額させることも可能です(※)。
※症状や事故態様によっては増額しないことがあります。
後遺障害の逸失利益
耳鳴りによる後遺障害の等級が認定された場合、その被害者は、改善しない症状が残存し、治療が終わった後も日常生活に影響が残ってしまっていることから、労働力にも影響を及ぼすと考えられています。
そこで、以下の3点を所定の計算式に当てはめて計算したものを「逸失利益」(得られなくなる(逸失してしまう)であろう収入(利益))として請求します。
- 労働能力が制限される度合い
- 制限されると見込まれる期間
- 収入能力
自賠責保険の保険金でも、前述した後遺障害の慰謝料とは別に逸失利益が支払われますが、上限額が定められているため、通常は裁判所基準で計算したほうが高額になります。
<参考>逸失利益を算定する際のポイント
弁護士基準と呼ばれる賠償金の計算方法等を記載している「損害賠償額算定基準」、いわゆる「赤い本」と呼ばれる参考資料では、逸失利益の算定方法を以下のように記載しています。
「逸失利益の算定は労働能力の低下の程度、収入の変化、将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性、日常生活上の不便等を考慮して行う」
- 「基礎収入」
まず、逸失利益は「基礎収入」を基に計算されます。
基礎収入とは、直近の年収を用いることが一般的です。家事従事者など、金銭を受け取っていない労働者が具体的な年収を示すことが困難である場合は、賃金センサスと呼ばれる「平均賃金」を用いて算定することがあります。 - 「労働能力喪失率」
つぎに、労働能力が制限される度合いは、「労働能力喪失率」と表現されます。 後遺障害の程度によって、5%~100%の制限を受けるとされています。
労働能力が制限されると見込まれる期間は、「労働能力喪失期間」と言い、その期間の採用方法は、症状の改善を見込めなくなった時期から67歳まで、もしくは平均余命の1/2のいずれか長いほうから、その期間に応じた中間利息を控除したものが採用されます。
ただし、労働能力喪失期間は症状によっては、5年~10年程度とされるケースや、職業などから、労働能力自体喪失しないとされるケースもありますので、注意が必要です。
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耳鳴りによる後遺障害認定・示談交渉は、交通事故に精通した弁護士に依頼しよう
いかがでしたか。
事故後に整形外科の医師に相談したが事故との因果関係はわからないと診断されたり、頭部CTを撮ったものの脳や耳にはっきりした異常はないと言われてしまったりしたケースでも、実際には、交通事故が原因で後遺障害を負ってしまっていたと言わざる得ない症状を残している被害者の方も珍しくありません。
労災保険および、自賠責保険における耳の後遺障害で、耳鳴りについての認定は多く存在していますが、自覚症状があるにもかかわらず、適切に検査や治療を受けないことで、後遺障害として認定されないことも多いのです。万が一、症状が残ってしまった場合、耳鳴り症状で後遺障害の認定を受けるためには、症状を自覚したらいち早く、耳鼻科などの専門医を受診することが大切です。
また、交通事故によるケガの適切な治療や、後遺障害等級の認定に必要な手続や示談交渉には、さまざまな知識が必要となります。ご自分での判断が不安な方は、経験豊富で、交通事故に精通した弁護士への相談をおすすめします。
【関連FAQ】
後遺障害の判断はどうやってされるのですか?