【首骨折の後遺症】後遺障害の認定基準と賠償金額算定について弁護士が解説
二輪車や歩行者の交通事故に限らず、四輪車同士の事故でもむち打ちなどのように、首に損傷を負うことがあります。さらに、大きな事故であった場合、首の骨、専門用語で「頸椎」(本文にて解説)と呼ばれる部分を骨折するなどした場合、後遺症が残ってしまうことがあります。
なお、交通事故によるケガで後遺症が残った場合、自賠責保険における後遺障害等級の認定を受けたうえで、加害者の任意保険会社に慰謝料などの賠償金を請求することが一般的です。
そこで今回は、交通事故で頸椎を骨折した場合に認定される後遺障害等級、および頸椎骨折で後遺障害等級が認定された場合に受け取れる賠償金額についてご説明します。
- この記事でわかること
-
- 首の骨折で認められる後遺障害
- 首の骨折で請求できる慰謝料の相場
- 目次
頸椎とは?
頸椎骨折とは、首にある頸椎を骨折してしまったことを指します。
頸椎骨折には大きく分けて2種類あり、椎体部分の圧迫骨折である場合と、突起部分の突起骨折である場合があります。
頸椎についてご説明します。頸椎は7つの椎骨でできています。上からC1、C2…C7と呼びます。
このうち、上の2つは下の5つと違う形をしており、第1頸椎(C1)を環椎、第2頸椎(C2)を軸椎といいます。これらは首の可動域の大部分を機能させる重要な役割を果たしています。
また、頸椎には、頭部を支え、脳から全身に向かう神経の束を通すとともに、多数の感覚器官のついた顔の向きを変える機能もあります。さらに、頸椎で頭部を支える円柱状の部分(第7頸椎)を椎体といいます。
頸椎骨折の後遺障害について
次に、頸椎骨折の場合ごとに、どのような後遺症が残り、自賠責保険における後遺障害等級が認定されるかをご説明します。
頸椎椎体骨折の後遺障害
頸椎の椎体骨折で認められる後遺障害には、「脊柱変形の後遺障害」と、「脊柱運動障害の後遺障害」および「歯突起骨折の後遺障害」の3種類があります。
交通事故での椎体骨折は、圧迫骨折ともいい(※)、事故の衝撃で椎体に強い力が加わり、椎体にヒビが入ったり、腹側や側面が圧壊したりした状態を指します。
圧迫骨折の状態には、下記の3通りがあります。
- 事故直後からかなり圧壊変形している場合
- 椎体に多数のヒビが入り、その後1~3ヵ月で徐々に荷重で変形してつぶれていく場合
- 椎体にヒビが入ったものの、治癒が可能な場合
なお、①②③のどれに該当するかは、事故の時の衝撃の強さによって決まります。
- ※椎体骨折では、椎体の腹側(前柱)と背側(中央柱)の両方に骨折線が入った状態を、特に破裂骨折といいます。
脊柱変形の後遺障害
脊柱変形の後遺障害としては、以下の後遺障害等級が認められる可能性があります。
後遺障害等級 | 内容 | 自賠責保険金 |
---|---|---|
脊柱に著しい変形を残すもの (6級5号) | 複数の椎体の圧迫骨折により前方椎体高の合計と後方椎体高の合計の差が椎体1個分以上ある場合 圧迫骨折により生じた後弯が椎体半個分以上あり、かつ、コブ法による側弯度が50度以上ある場合 | 1,296万円 |
脊柱に中程度の変形を残すもの (8級相当) | 複数の椎体が圧迫骨折を残して後弯(=前屈)を生じた場合 圧迫骨折により生じたコブ法による側弯度が50度以上ある場合 環椎または軸椎の変形固定により可動域範囲が変化した場合(詳細は省略) | 819万円 |
脊柱に変形を残すもの (11級7号) | 1個の椎体が圧迫骨折を残した場合 脊柱固定術をした場合 3つ以上の椎弓形成術をした場合 | 331万円 |
脊柱運動障害の後遺障害
脊柱運動障害の後遺障害としては、以下の後遺障害等級が認められる可能性があります。
後遺障害等級 | 内容 | 自賠責保険金 |
---|---|---|
脊柱に著しい運動障害を残すもの (6級5号) | 頸椎と胸腰椎の両方に圧迫骨折による変形がある、頸椎と胸腰椎の両方に脊柱固定術が行われた、または項背腰部部軟部組織の器質的変化のために、頸部と胸部の両方が強直した場合 | 1,296万円 |
脊柱に運動障害を残すもの (8級2号) | 頸椎に圧迫骨折による変形がある頸椎に脊柱固定術が行われた項部軟部組織の器質的変化のいずれかのために、頸部の可動域が参考可動域の半分以下に制限された場合 | 819万円 |
「関節の強直」とは、可動域が参考可動域の10%(5度単位で切り上げ)以下の場合に認められます。
交通事故の場合、C1環椎またはC2軸椎の骨折後の変形、C1頸椎とC2頸椎の固定術が行われた場合、または4個以上の頸椎が一体化する固定術がおこなわれるような例外的な場合でないと、運動障害は問題になりません。
なお、頸椎の運動障害は、むち打ちによる炎症や頸部の筋肉のこわばりなどによっても生じますが、それらの症状は頸椎の運動障害の客観的根拠とは認められず、脊柱運動障害の後遺障害等級は認定されません。
歯突起骨折の後遺障害
歯突起骨折の後遺障害としては、以下の後遺障害等級が認められる可能性があります。
後遺障害等級 | 内容 | 自賠責保険金 |
---|---|---|
脊柱に中程度の変形を残すもの (8級相当) | 環椎または軸椎の変形固定により可動域範囲が変化した場合(詳細は省略) | 819万円 |
脊柱に運動障害を残すもの (8級2号) | 頸椎に圧迫骨折による変形があるために、頸部の可動域が参考可動域の半分以下に制限された場合 | 819万円 |
歯突起は、軸椎(C2)にあり、環椎(C1)の窪みに組み合わさって首の回旋の軸になっている非常に重要な骨です。激しいバイク事故や追突事故で強い衝撃が頭部に加わったとき、歯突起を骨折することがあります。
歯突起の骨折は、重度の頸髄損傷を伴い、四肢麻痺につながりかねない極めて危険な受傷態様ですが、歯突起を骨折しても頸髄損傷がない場合もあります。また、歯突起を骨折した場合、保存的に治療する場合と、軸椎にボルトを入れて固定する場合があります。もし、変形固定してしまったり、高齢等のために歯突起が癒合せず軸椎と環椎を固定してしまったりした場合、頸椎の可動域が大きく制限されます。
なお、歯突起を骨折して変形固定等した場合の後遺障害は、上記(1)の変形障害(第8級相当)または(2)の運動障害(第8級2号)です。
ただし、歯突起のボルトによる固定が適切で、歯突起の機能や、頸椎の保持および可動域に問題が生じなかった場合には、等級は認定されません。
頸椎突起骨折の後遺障害について
頸椎には、背側の棘突起と両側の横突起、および軸椎の歯突起の3種類の突起があります。
横突起も棘突起も、頸椎の荷重や姿勢保持機能を直接支えていませんので、骨折しても「脊柱変形」や「脊柱運動障害」の後遺障害等級の認定は通常されません(ただし、C2軸椎の歯突起骨折は、脊柱変形や脊柱運動障害の後遺障害認定の対象になります)。
しかし、頸椎の突起部分の骨折の場合にも、局部の神経症状の後遺障害が認められることがあります。
たとえば、椎体ではなく突起部分を骨折し、変形癒合(骨折部がズレたまま、くっついてしまった状態)や偽関節(骨の癒合が止まった状態)を残して痛みが続く原因となっていることが認められる場合には、「局部の頑固な神経症状を残すもの」として12級13号が認定されます。また、変形なく癒合したものの痛みが続く場合は「局部の神経症状を残すもの」として14級9号が認定されることがありますが、これはまれです。
局部の神経症状の後遺障害
局部の神経症状の後遺障害としては、以下の後遺障害等級が認められる可能性があります。
後遺障害等級 | 内容 | 自賠責保険金 |
---|---|---|
局部の頑固な神経症状を残すもの (12級13号) | 突起骨折により生じた痛みが症状固定時に残存していることが医学的に証明できる場合 (変形癒合または偽関節) | 224万円 |
局部の神経症状を残すもの (14級9号) | 突起骨折により生じた痛みが症状固定時に残存していることが医学的に説明できる場合 | 75万円 |
交通事故被害の
無料相談は
アディーレへ!
頸椎骨折の後遺症の賠償金額について
後遺障害等級が認定された場合、弁護士を通じて交渉すれば、弁護士基準を用いて算定した後遺症慰謝料と逸失利益の支払いを交渉することができます。
自賠責の後遺障害保険金は、下の表のように慰謝料部分と逸失利益部分に分けられていますが、慰謝料も逸失利益も弁護士基準で算定すると大きく増額することがほとんどです。
後遺障害等級 | 基準 | 慰謝料 | 逸失利益の上限 |
---|---|---|---|
6級 | 自賠責保険 | 512万円 | 784万円まで(慰謝料と併せて1,296万円まで) |
弁護士 | 1,180万円 | 年収の67%を67歳または平均余命の半分まで | |
8級 | 自賠責保険 | 331万円 | 488万円まで(慰謝料と併せて819万円まで) |
弁護士 | 830万円 | 年収の45%を67歳または平均余命の半分まで | |
11級 | 自賠責保険 | 136万円 | 195万円まで(慰謝料と併せて331万円まで) |
弁護士 | 420万円 | 年収の20%を67歳または平均余命の半分まで | |
12級 | 自賠責保険 | 94万円 | 130万円まで(慰謝料と併せて224万円まで) |
弁護士 | 290万円 | 年収の14%を10年~20年 | |
14級 | 自賠責保険 | 32万円 | 43万円まで(慰謝料と併せて75万円まで) |
弁護士 | 110万円 | 年収の5%を5年~10年 |
- (令和2年4月1日以降の事故の場合の金額)
ただし、本人の努力や職場の配慮もあって、圧迫骨折による脊柱変形後も収入が変わらず、交通事故によるケガの影響がないように見えることがあります。そのような場合、逸失利益が上記の表のとおりには算定されないことがあります。
まとめ
以上、交通事故で頸椎を骨折してしまった場合の後遺障害や、後遺障害等級が認定された場合の賠償金額などについてご紹介しました。
後遺障害等級認定を申請して後遺障害が認定された場合、被害者が受け取れる金額は自賠責基準と弁護士基準で異なり、通常、弁護士基準のほうが高額になります。交通事故にあったうえ、ケガで辛い思いをされているのですから、適正な賠償金をきちんと支払ってもらうようにしましょう。
交通事故にあってケガをされた場合には、お一人で悩むことなく、弁護士に相談されることをおすすめします。